【気象コントロールセンター】移転の、その先
この内容はフィクションです。
「CWCはホライズンベイにおける実証実験に一定の成果を得たとして、フローティングシティ"HYDRA-7"への移転を決定しました」
四年前の今日。気象コントロールセンターのミッションホールに集まったメディア各社の前で、チーフグランドクルーのギデオンは衝撃的な一言を放った。
そしてその一年後、宣言通りCWCホライズンベイ支局は閉鎖され、フローティングシティに急遽用意された簡易本社に住所を移す。
──移転の背景に一体何があったのか。
今まさに始まっているCWCの新たな挑戦について考えてみよう。
フローティングシティは海岸から数キロ程度先の水面に浮かび、鎖で係留されている。
後からの埋め立ては行われず、一から都市全体がデザインされているため、都市の水平が保たれると同時に海面の上昇にあわせて建物も上昇するなど、自然災害にはめっぽう強い。
しかし一方で、ハリケーンやストームなどの大規模な気象災害に対する脆弱性は沿岸都市とほぼ変わらないのが現状だ。
無名の科学者数名が集まり、そういった気象災害に対抗するため構想されたのが、CWCの保有・運用する飛行型気象観測ラボ、通称「ストームライダー」(以下、SR)である。
「ストームディフューザー」と呼ばれるダイナマイト型計算機をストームの目に直接撃ち込むことで、SRの測定したストームの規模に合わせ巨大な衝撃波を起こし、ストームを瞬時に消し去る。
単なるミサイルではなく、高度な計算機テクノロジーによって実現した高性能な装置なのである。
しかしプロジェクトの初動の雲行きは、決して良いものではなかった。
フローティングシティの科学者達は極めて保守的であり、また住人達の持つ誤解を解く充分なフィードバックも得られていなかった。
気候を無理矢理に変動させるという業の深い行為について、「シティの頭のカタい学者」たちの反応は当然良いものではなかった。当時のデモの様子を思い出して欲しい。
今回のSR研究開発と実証実験を経て、浮き彫りになった問題がある。
フェスティバルにおいて最大規模のレベル5のストームを消し去ったとして、一躍注目を浴びることになったSRだが、現場のクルーにしてみれば、そこには早急に解決されるべき大きな課題があるという。
そう──数々の組織が直面する課題。
意思決定の遅さである。
果たしてあのストームは、レベル5でなければならなかったのか?
実際にレベル1以上のストームが発生してから、現場クルーのストーム検知、危機管理部、経営支援部を経て、ポートディスカバリー科学技術部会その他の組織に通知され、対策の承認を取ってからCWC担当にてSR発進の準備に取り掛かる。
「ド派手なストームを消したお陰で乗客のみんなが楽しんでくれたから、ホント、ラッキーだったよ」
そう語るのは、件の巨大ストームの消滅ミッションに関わったパイロット。しかし同僚の話によると、それは本音ではないらしい。
ストーム発生、あるいはそれに至る以前の低気圧の時点から、CWCはシティへの警告を送っている。しかし実際にミッション準備に取り掛かるまでの手順が多すぎる、と本音を漏らしたという。
「乗客への手順説明やSR発進前のチェックは削れない。削れるとすれば、それは大人の事情で行われるムダな会議。だろ?」
ともあれ、CWCの"ストームライダー計画"が認められ、正式にフローティングシティ"HYDRA-7"で運用されることが決まった。
相変わらず近海の海水温は上昇し、自然災害の被害総額は年々増えていて、うち19%が嵐によるものだという。
無論、テクノロジーの発展と比例するように、災害時に起こるシステムの障害は大規模になるため、被害総額が増えていることはイコール被害件数が増えていることではない。
しかしながら、フローティングシティが名実ともに"不死身の都市"となるには、CWCがホライズンベイから持ち帰った成果と課題を充分に活かす環境づくりが必要である。
現在でもホライズンベイでの気象観測は続いており、主にフィールドワーク・教育活動を行っている研究開発機関"ウィンド・ワンダラーズ・アンド・テクノロジーズ"と協力関係を結び、新時代の気象のプロを育てるという。
(文章:Nos_ghostopia 写真:KANA@mikima_kawaii)
この記事はフィクションです。
実在のアトラクションに対する一個人の創作であり、公式の設定を紹介するものではありません。
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